目次
はじめに
立教大学コミュニティ福祉学部の空閑厚樹(くが・あつき)です。2021年8月5日、今年度初めて小川町での活動をオンラインで行いました。
当初、昨年度同様にコロナ対策をとって対面で実施する予定でした。特に、今回の活動では環境配慮型のエコデザイン新社屋(ここにコミュニティ・スペースが設置されます)の施工過程をドローンも使って記録することにしていたので、対面で実施したいと考えていました。感染予防対策のため、参加者37名を6チームに分け、新社屋記録の他、小川町の有機農家、古民家改修レストラン、古民家改修コワーキングスペース、吉田家住宅(享保6年(1721年)建築)、小川町役場、小川高等学校を訪問して、それぞれの現場で活動されている方々からお話しをうかがう予定でした。
7月12日、東京都に緊急事態宣言が発令されました。それでも、調査に協力してくださる方々や学部の担当者と話し合いをして、対面実施の準備を進めていました。しかし、その後も感染者数増加のペースは鈍化せず、8月2日には埼玉県も緊急事態宣言の適用範囲となりました。やむなく8月5日の小川町での対面での調査活動は中止することにしました。ただし、小川町役場と小川高等学校についてはオンラインで調査活動を行うことになりました。
小川町役場、そして小川高校ではそれぞれ持続可能な地域活性化と関連する活動を展開しています。今回の調査では、小川町役場からは若手の職員の方々に、小川高校からは校長先生、教頭先生、若手の先生に調査協力していただけました。
今回、職員や教員の個人的な意見をうかがうことに焦点を当てました。なぜならば、組織としての見解はホームページを見れば確認できます。しかし、実際に活動に携わっている方々が実際に感じている課題や、抱いている希望、将来への想いは直接お話をうかがわなければ知ることができないからです。
今回の調査には、エコデザイン新社屋でのコミュニティ・スペースの活動に一緒に参加するエコデザイン社員、そして小川高校生徒有志にも参加してもらいました。
以下、調査に協力してくださった方々の了解がとれましたので、参加学生の執筆した調査報告レポートを掲載します。
「2030年の理想の小川町実現のための一歩」木村早希(コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科2年)
はじめに
今日の小川町は、少子化や町外転出者増加による人口減少が起きている。この変化により、現在小川町は消滅可能性都市という位置に立った。この壁を乗り越えるため、2030年の小川町を持続可能な地域活性化の街へと変えていくという大きな目的を掲げる。
第一歩として何から取り組むべきであるかを一人ひとりが当事者意識を持つことが大切だ。求めている目標の歯車がずれないよう、この日は役場の方々と話すことのできるとても貴重な時間をいただいた。この話し合いでは以下の5つの質問を小川町政策推進課・小川町にぎわい創出課・小川町環境農林課へ問いかけた。
- 現在の持続可能な地域活性化、もしくはSDGsの実現に繋がる各担当事務紹介
- 政策の成果を具体的に紹介
- 実際に取り組み、予想通りに進まなかった点や課題について
- 次年度以降の展開についてのアイディアや考えについて
- 役場職員としての2030年小川町の理想の姿(個人的意見・考え)
以上の5つの質問の中から話し合いを通し、共通した根本的な課題があることが分かった。それは、まず身近な役場の中でSDGsに対する理解を深化してもらい、住民にSDGsという言葉を知ってもらい共通意識を持ってもらうことだ。
役場の方からの具体的なお話を基に、自身の経験や考えを用いて2点述べる。1点目は、内容検討についてだ。2点目は、この調査をして気づいたことの考案についてだ。
内容検討
5つの質問の中から1. 2.と3. 4. 5.に分けて述べる。前者は、現在実際に行っている取り組みについてだ。後者は、話し合いをしていく中で成果に繋げられたか否かという自己フィードバックについてだ。
小川町政策推進課では、小川町の歴史や文化、自然、産業などを教材として町について学ぶことにより、郷土愛の育成や探究的な学び、地域の課題解決につなげる「おがわ学」に取組んでいる。また、OGAWA6Sプラットフォームにおいて、講演会を実施するなどして、SDGsに資する取組をしている。以上の取組は、まだ若い世代が自ら町の魅力や課題に気づき、課題解決に資する取組を行うことで新たな魅力が生まれるというサイクルを目指している。地元愛を作って提供するのではなく、地元愛を作れる環境を整えて裏からサポートしている。
小川町にぎわい創出課では、資源や歴史を紹介するボランティアガイドさんを養成し、まちなか散歩ツアーを実施している。パンフレットや画面からは伝えきれない、小川町を感じる取組を行っている。空き店舗活用補助金や、移住サポートセンターの設置、空き家バンク、空き家改修補助制度などの事業効果により、移住サポートセンターを通して移住人口は増加傾向にある。
小川町環境農林課では、環境の保全に係る取組を行っている。その中の一つに、小川町の森林及び木質バイオマスの利用可能性を、空閑先生をはじめとする町民とともに検討している。ヒアリングした3つの課の中では、町民の目に見えやすいSDGsの取組が多い。
小川町政策推進課では、途中経過のため成果は数字としてはっきりと表れていないが、おがわ学に協力してくれる町民や、プラットフォームに参加してくださる方々がその成果と言える。これは興味関心へと繋がり、町全体が協力してくれているという表れとなる。
小川町にぎわい創出課の視点からは、新規店舗開業者が増えるなど、町施策の効果は一定程度あるものと考える。その一方で、伝統産業・各商店・飲食店等、後継者が見つからない問題や、収益に繋がらないなどといった理由から店じまいを選択する商店もある。町全体として新しいモノ・よそ者を拒む雰囲気が残っている傾向にもあるが、近年の移住者の増加、新規店舗開業など、新旧がうまく融合することで、町民の意識改革・町の発展に繋がるのではないかと考える。
小川町環境農林課では、、利用可能性の検討段階のため成果として捉えることが難しいという結果になった。根拠として、人それぞれの環境に対する意識レベルの統一が難しいからだ。これは同じレベルにいるかを可視化できないことにより、揃える基準が定まらなくなっているのだ。
今後の課題
話し合っていく中で、共通のポイントがみえた。それはSDGsにおける土台作りが不十分であるという点だ。したがって、小川町におけるSDGsの目標を誰もが口をそろえて伝えることのできる環境づくりが一番の根本的な課題となる。全てが可視化できるものではない。そのため、役場だけで完結するのではなく町民の声を拾い意見をもらうために、町民同士でもコミュニケーションのできる環境づくりが必要となる。役場の中で循環する取り組みではなく街を巻き込み外部からの意見を巻き込んだ発言しやすい環境を作り上げてくることが課題だ。
実際に、以上の土台の大切さを身に染みて感じている。塾講師アルバイトの話を取り上げる。生徒や保護者との面談の時に必ず勉強を始めることは、やみくもに机に向かうことではなく学習の土台である根本的な自分だけの課題を見つけることだと伝える。勉強だけではなく、この言葉は社会に出ても同じであるのだ。また、勉強ができない人は「楽しい」にまだ気づけていないからである。感情に楽しいという色が生まれたとき、はじめて勉強の楽しさに気づくのだ。そこから点数という社会で言う成果へと導かれていくのである。
小川町の役場の方の話を聞き自身の経験を通して、今できることは何より活動している当事者が楽しいを全力で表現していくことだと気づいた。
前述の課題を解決させるためにも、いま一度、現在の社会の現状について事実質問を用い、実際の声をもとに知る必要がある。その上でハンス・ロスリングが述べたこの文を大切にしていきたい。
事実についての質問をしてみれば、知識不足が果てしなく表に出るはずだ。だから、まずは質問から始めてみよう。それが最初の一歩になる。この本と同じやり方で、自分の組織の中の知識不足を見つけるといい。組織にとってのいちばん大切な事実から聞いてみよう。どのくらい多くの人がそれをしっているかを調べてみよう。
ハンス・ロスリング 2019; 323
事実質問をし過ぎると尋問のようになってしまうが、事実だけを聞くことによって相手も自分について振り返る機会になりお互いの学びにも繋がるためとても良いものである。
おわりに
この機会でSDGsについて人に説明するときにどうしているかという小原さんのお話がとても印象的であった。SDGsとは、「今までやっていたままでいい。」ということだ。17のゴールで整理されているが、その一つ一つに多様性がある原因で混乱する。例として、昔はホチキス一つを買うにも高かったため無くした時に一生懸命探していたという世の中であった。しかし、現在はコストパフォーマンスのよい(コストパフォーマンスを重視した)100円ショップという店があるため、無くなったらまた買えばいいという精神の世の中へと変わってしまった。楽な生活ができるという便利グッズが増えたことで大量生産大量消費が出てきてしまっているのだ。
難しく考えず、身近なものなのだ、と伝えていくことなのである。
【参考文献】
ハンス・ロスリング, 2019, 『FACTFULNESS』(上杉周作・関美和訳), 日経BP社.
以上。
「8/5調査レポート(小川町役場)」藤井優衣(コミュニティ福祉学部コミュニティ政策学科2年)
調査概要 何を目的とした調査か 誰に対してどのような質問をしたか
今回の調査では、小川町役場の政策推進課、にぎわい創出課、環境農林課の方々を中心に、the Organicの小原壮太郎さん、エコデザイン社のタムラさん、小川高校の生徒さんにも参加していただき、オンラインで調査を行った。
今回の調査の目的としては、役場でのお仕事を通してSDGsと関連している政策について紹介していただき、現時点でお考えになられていることや今後の展開について語っていただいた上で、最終的に2030年の小川町について全体で考える機会を設けることである。
質問の流れとしては以下のような流れで行った。
- これまで担当されてきたお仕事でSDGsと関連のあるお仕事について
- これまで実施した政策でSDGsの実現につながると考えるもの
- 政策の成果について
- 予想通りに進まなかった点や今後の課題について
- 次年度以降の政策の展開やアイディアについて
調査結果 どのような回答がかえってきたか
まず、政策推進課では総合振興計画の進行管理や小・中・高を対象に小川町の地域資源を題材にしたテキストをもとに小川町について学び、地域課題の解決へと繋げるおがわ学、小川町への移住促進などに向けた企画を行っているOGAWA6Sプラットフォームなど、地方創生に向けた多種多様な政策を行っている。現在、OGAWA6Sプラットフォームの魅力体験型ツアーの実行委員会では農ある暮らしをテーマにSDGsの2番や3番、4番に関連するような企画を立案中とのことである。
成果としてはおがわ学、OGAWA6Sプラットフォームのいずれにおいても実施し始めている段階ではあるものの、実感としておがわ学では今年度から本格的に授業が開始され、多くの地域住民が先生として参加しているため、地域住民との連携が出来上がったことが現時点での成果である。OGAWA6Sプラットフォームの成果としては、小原さんが企画している講演会をきっかけに町内・外からの参加者が小川町に興味関心を抱き、実行委員会への積極的な参加が見られることである。
今後の課題としては、おがわ学やOGAWA6SプラットフォームのどちらにおいてもSDGsの認識を上げ、参加者の積極性を促していくことが挙げられた。
次に、にぎわい創出課ではSDGsに関連する政策として、企業支援や企業誘致、それに伴う雇用の創出などがある。
成果としては新規創業に向けて取り組んでいる事業者へのサポートが挙げられた。近年、小川町で新たに創業を希望する人が増加しているため、移住サポートセンターと連携して空き店舗の紹介などを行っている。観光面では、ボランティアガイドによるまちなか散歩ツアーの実施を通して小川町の地域資源や歴史を紹介しており、交流人口の増加が見られたという。おがわ学の授業の一環としても取り入れられている。
今後の課題としては、コロナ禍で求人も限られ、就職活動が困難になっている現状がある。現状の打開として、町が仕事のあっせんを出来ないことや的確なアドバイスをすることの難しさが挙げられた。
また、観光面では伝統産業・各商店等の後継者不足の問題も深刻である。
今後の展開として、販路拡大など新たな取り組みにチャレンジしようとしている事業者への支援を次年度以降も強化することや、コロナ収束後に積極的な企業訪問を行い、町内の会社同士のつながりを強化していくことが挙げられた。観光面では和紙や酒蔵の伝統産業、有機農業などの地域資源を活用し、農業と観光を組み合わせたツアーなどを企画していきたいという。
最後に、環境農林課ではSDGsに関連する政策として2つ挙げられた。1つ目は、使用されなかった間伐材などを燃やして発電し、電気として再利用する木質バイオマスの利用である。今までは他地域からエネルギーを消費していたため、対価が流出していたが、木質バイオマスが何年後かに成功すれば地域内でのエネルギー循環が実現し、地域活性化が期待できる。
2つ目は各家庭の廃食用油を回収し、バイオディーゼル燃料にして公用車の燃料に再利用していることが挙げられた。
成果としては町民に木質バイオマスの利用方法についての説明会を行ったことが挙げられた。
今後の課題としてはSDGsを意識レベルで統一することの難しさが挙げられた。特に世代間でSDGsへの関心に差があるため、全ての町民が当事者意識を持つことが極めて重要だという。
the Organicの小原さんからは2030年の理想の小川町としてこのようなアイディアを出してくださった。小川町の魅力として、東京から電車で1時間圏内に位置していながら人間が生きるための土台(きれいな水や土)や豊富な地域資源、歴史ある街並みや伝統文化などの小川町らしいカルチャーがある。そのような魅力を軸にして人々がより住みやすい地域づくりを進めていくことで移住人口や関係人口の増加が期待できる。
また、小川町では工業団地を作って大規模な工場を誘致することで地域を活性化させているが、これは昭和的な町おこしである。現在、世界の経済はITを中心に回っている。東京から近いという立地を利用してIT系の企業を誘致し、自然環境を壊さずに町の税収を上げる。そのために、子ども達のIT教育を充実させ、起業家を育成する。一言で言うと、ITのインフラを整備して、小川町の地域活性化を図る、という画期的なアイディアを出してくださった。
エコデザイン社のタムラさんからは、小川町を発信すること自体がSDGsに繋がるという意見を提案してくださった。エコデザイン社では、ブログを通して小川町を発信しているという。
内容検討 調査をして気づいたこと、考えたこと
小川町役場の方々にインタビューして気づいたこととしては、政策推進課、にぎわい創出課、環境農林課で共通して挙げられたこととして、人々のSDGsの認識の薄さが根本的課題とされていることが分かった。これは小川町に限らず日本全体としても、一人一人が当事者意識を持ってSDGsに取り組もうという意識が欠けているため、SDGsを達成していく上での大きな課題である。SDGsを自分事として捉えてもらうためには人間活動が気候変動や貧困といった社会的問題にもたらす影響を知ってもらい、一人一人が現状を変えようという意識を強めることが重要だと思う。また、行政、企業、住民がステークホルダーとしてパートナーシップを結び、環境、経済、社会の三側面から統合的にアプローチしていくこともSDGsを達成していく上で重要なカギとなる。SDGsは関心のある一部の人々だけで達成することは出来ない。だからこそ、地域全体を巻き込んで一人一人が行動に移しやすい環境づくりを築き上げていくことが重要だと考えた。
今後の課題 さらに調査すべきことについて
今回は小川町役場の皆さんにSDGsに関連する政策の概要についてお聞きすることが出来た。次回以降はそれぞれの政策に焦点を当てて、どのように運用されているのか詳しく調査してみたいと思った。また、小川町の町民の方も交えて実際にどの程度SDGsが認知されているのか、個人個人ではどのような活動をされているのか、といった点について調査してみたい。
次回について
次回は【小川高校編】です。
立教大学・空閑ゼミの小川町での活動 2021年度 #1-2——コロナ禍での調査②【小川高校編】
〈空閑ゼミの連載記事一覧(2020年度)〉
立教大学・空閑ゼミのエコデザイン訪問記 #5——2020年9月15日
立教大学・空閑ゼミのエコデザイン訪問記 #4——2020年9月9日
立教大学・空閑ゼミのエコデザイン訪問記 #3——2020年9月3日
立教大学・空閑ゼミのエコデザイン訪問記 #2——2020年8月28日
立教大学・空閑ゼミのエコデザイン訪問記 #1——「人、モノ、カネ」の「質」を豊かにしよう
(2021年9月28日:小川高校編へのリンクを追加しました。)