🔰 オゾン初心者向け 🍀
この記事はオゾン初心者の方向けです。
エコデザインの長倉正始です!
矢野寿一先生リモートインタビューの後編をお届けします。
(インタビュー日:2021年2月17日)
矢野寿一先生のご紹介
矢野 寿一(やの・ひさかず):長崎大学大学院医学系研究科博士課程 修了後、東北大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科 助教、(独)国立病院機構 仙台医療センター勤務、東北大学大学院医学系研究科 准教授を経て、奈良県立医科大学微生物感染症学講座 教授。博士(医学)。専門は細菌学、薬剤耐性。コロナ禍にあっては、様々な物質や触媒などによる新型コロナウイルスの不活化効果を調査する業務に尽力している。
〈インタビューの前編はこちら〉
【インタビュー】矢野寿一 先生(奈良県立医科大学教授)〈前編〉——感染症対策の基本は手洗いです
オゾンは他の消毒剤とどう違うのか
オゾンガスが気体であるという特徴
MBT新型コロナ感染対策研究結果で、いろいろな光触媒とか紫外線とかを新型コロナウイルスに向けて使ってらっしゃると思うんですけど、他のそういったものと比較して、オゾンにはどういった特徴があると思いますか。
長倉正始
矢野先生 一番初歩的なところで挙げると、オゾンガスは気体という点です。オゾンにはオゾン水もあるんですけども。
例えば病室とかで紫外線を当てる装置がありますが、物の影になると当たりにくくなったりすることもあります。光触媒については、そこに接したものでないと不活化できないと。そういった意味ではですが、オゾンは気体ですので、そうした影の部分だったり、いろいろなところに作用してくれますので、非常に適用範囲の広い消毒の方法の一つかと思います。
長倉正始
矢野先生 これはオゾンに限らずどんな良い薬でもそうなんですけども、濃度が高いと人に害を与えますし、濃度が低いと効きにくいです。なので、オゾンは良薬でもあるけど毒でもあるということであって、きちんとした使い方が大事になってきます。
なるほど。使い方に気をつけて適切に使えば、コロナに対しても大きな効果をもたらせられると見てよいのでしょうか。
長倉正始
矢野先生 そうですね。可能性は高いと考えてます。
オゾン水の特徴
長倉正始
矢野先生 オゾン水についても非常に効果は高いと思ってます。
長倉正始
矢野先生 水道水を電気分解してオゾン水を作る場合、普通の消毒薬並みの不活化効果が見られるものも多いです。
あと、水道水から作りますので、特別な原材料がいらないので、消毒薬のエタノールがなかなか入手しづらい時には、そういったものの代用としては非常に使い勝手のいいものではないかというふうに思ってます。今は流通が改善され、エタノールの在庫はどこでも潤ってますけどもね。
オゾン水はどのくらいの濃度が必要か
ちょっと私が思うのは、消毒用エタノールはかなり濃度が高いと思います。70-80%とかそれぐらいですけど。オゾン水は、それに対してppmとかそういったオーダーなので、感覚的にはエタノールよりも多くの量が消毒には必要になるのかなという感覚を持ったんですけど、それはどうでしょうか。
長倉正始
矢野先生 0.5ppmぐらいのオゾン水でも、噴霧でエタノールに近い不活化の作用を示すものもありました。
そうですか。噴霧、霧状のオゾン水を対象に吹きかける感じでしょうか。
長倉正始
矢野先生 そうです。例えばわれわれの実験の一つでは、シャーレの上にウイルスを置いておいて、そこに向かって噴霧して、そのあと液を回収してどれぐらいウイルスが残ってるかっていうのを見ています。ちょっと今データを見てみているんですけど、エタノール消毒薬並の不活化効果を示してますね。
そういうことですね。確かにオゾン水の場合だと酸素と水と電気だけで、エタノールに比べたらかなり省資源で作れるかなと思います。
長倉正始
矢野先生 はい、そうですね。
オゾンガスを低濃度で使いたい需要にどう応えるか
オゾンガスについてまた質問なんですが、低濃度領域で使う場合、例えば有人空間で使う場合とかはどういった使い方が想定されますでしょうか。
長倉正始
矢野先生 日本産業衛生学会というのがありまして、そこで定められている作業環境基準値として、オゾンは1日あたり8時間まで、1週間で40時間までで許容濃度が0.1ppm以下で定められてます。アメリカのFDAでは、その半分の0.05ppm以下というふうに定められてます。なので、基本的には0.1ppm以下、0.05ppmぐらいで使用されるのがいいと思います。0.1ppm以上の時は、無人環境にすべきだと思います。
長倉正始
MBT新型コロナ感染対策の研究結果には、0.1ppm程度の試験をされた結果というのもありましたが。
長倉正始
矢野先生 はい、あります。一番直近では0.1ppmだと6時間で検出限界ですね。大体1万分の1から10万分の1までウイルス量が下がるのに6時間ぐらいかかるという結果を持ってます。
それは対照区、何も使わない場合と比較したら不活化効果は高いと言えるのでしょうか。
長倉正始
矢野先生 そうです。何もしてないものとの比較になります。
なるほど。6時間で検出限界まで不活化するということは、逆に言うと6時間かかるということですよね。となると、無人空間で高濃度で短時間で早く殺菌するというか、不活化させるという使い方が適切と言えそうですね。
長倉正始
矢野先生 そうですね、用途によって使い分ければいいと思います。
耐性菌にオゾンは使えるか
実は、ぜひこの機会に専門家の方にお伺いしたかったことがありましてお伺いします。先生の専門である耐性菌に対して、オゾンが使える可能性というのは何かありますでしょうか。
長倉正始
矢野先生 耐性菌であろうが耐性菌でなかろうが、オゾンは適切に使えば効果があります。
そして、オゾンは物理的に菌を破壊するので耐性菌ができませんので、そういった意味では耐性菌を作らないのはオゾンの特長だと思います。抗生物質を使った時に耐性菌ができるみたいなことは、オゾンについては考えなくてもいいと。普通にオゾンの一般的な使い方をしていただければ、もう十分耐性菌の対策にもなりますし。
オゾンで薬は作れないか
本当に素人の考えで話が脱線しちゃうんですけど、オゾンを使って薬というのは、何か作れないものなんでしょうか。
長倉正始
矢野先生 薬ですか。
そうです。例えば私どもの会社で時々作るんですけど、特にオレイン酸とか不飽和脂肪酸、それにオゾンを吹き込むんです。そうすると二重結合に対してオゾン酸化という反応を起こして、オゾニドと呼ばれる特殊な油になるんです(編注:オゾン化油)。それはある程度強い酸化力を保持していて、涼しいところに置いとくと、かなり持ちがいいんですね。そういったものがあるので、何かいろいろ使えないかなというのを考えてるんですけど。
長倉正始
矢野先生 持ちが良いというか分解されず安定しているのであれば、例えば皮膚に塗るとか、そういう可能性はあるのかもしれないですね。
そうですね。ただ、かなり臭いんで、なかなか使いづらいといえば使いづらいとは思うんですけど…。
長倉正始
医療現場が求めるオゾン機器
続いては、医療現場や研究所内で先生の感じた中で、こういったオゾン機器がもしあったら嬉しいなといったことは何かありますでしょうか。
長倉正始
矢野先生 既にあるのはあるんです。例えば東京都だったら救急車の中にオゾン発生装置がもう採用されてまして、搬送し終わったあとに6ppmぐらいで1時間みたいな形で使われてたり。入院患者さんが退室したあとに無人環境下で使うような医療用のオゾン発生器も、確かタムラテコさんとかが出されてます。
あればいいなというか、より高い濃度にして、素早く高い濃度にして、それだけではなくてオゾンの分解装置がついているといいなと。ついているものもありますが、より素早く分解ができると、現場は助かるんだろうなと思います。
なるほど。非常に密閉性の高い空間などで換気ができないとか、そういった環境で素早く効果を出してからその後オゾンの分解まで行ってしまうというような装置ですかね。
長倉正始
矢野先生 そうですね、はい。
低濃度オゾンの濃度制御は難しい
今弊社で開発中のものがありまして、それが先ほどおっしゃっていた基準値の0.1ppmに濃度計でコントロールして、空間を0.1ppmに保つというものなんです。
長倉正始
矢野先生 それはいいですね。今市場に出ているものはたぶん、(オゾンの)出力に対して利用する部屋の大きさを想定して、それに対して、これだけの出力だったらきっと0.1ppmを超えないだろうみたいな形で使われてるのが多いと思うんですけど。でも、それだと本当は0.1ppmより高かったり低かったりする可能性があると思いますので、濃度をコントロールできる機械っていうのはとても素晴らしい機械だと思います。
ありがとうございます。これまでは、実は濃度をコントロールするのに必要な濃度計というのが結構ネックになってたのがありまして。今までは光学的にオゾンを測る方法の濃度計がメインだったんですね。それが、半導体とか電気化学反応の濃度計というのができてきて、大分そういった面でイノベーションが起きてるかなというのが。
長倉正始
矢野先生 以前は低い濃度の測定というのが難しかったんですね。
そうですね。光学的に測るというのは、紫外線を当ててオゾンに紫外線を吸収させて、基準値からオゾンを当てた時にどのぐらい吸収しているかというのの比較を見ることで計測しているんです。ところが、濃度が低いほど長い距離を計ってやらないと、要するに濃度が薄いので吸収量が少ないものですから、紫外線の強度が全然落ちないんです。なので、この方法で低濃度オゾンを計測するのはなかなか難しかったんですね。
それが別の方法が出てきたので、そういった意味では低濃度のオゾンをコントロールするっていうのはこれから易しくなるのではないかなと思ってます。そうするとCT値みたいな指標で、この部屋を滅菌したというのも数値的にかなり把握できるんじゃないかなと思いますね。
長倉正始
矢野先生 なるほど。
オゾン水をもっと手軽に使いやすく
あと、オゾン水とかで何かあるといいなとかってありますか。例えば研究室の中で、耐性菌の研究をする時にオートクレーブだと加熱する必要があると思うんですけど、オゾンだと常温でできるので、そういった面を生かすとか。必ずしもオゾン水じゃなくてもいいんですけど、そういったものとかって何かありますか。
長倉正始
矢野先生 研究室だけの話じゃないんですけど、蛇口にカチャッとつけれれば便利だなと。
なるほど。手軽に水道感覚でオゾン水が使えるとか、そういったことですよね。
長倉正始
矢野先生 ボタンを押したらすぐオゾン水になるみたいな。あればいいかな。
長倉正始
柿渋、藍、お茶とウイルス
柿渋とウイルス
気になっていたことがあります。茶渋を使った実験なのですが。
長倉正始
矢野先生 茶渋ではなく、柿渋ですね。
柿渋ですね、すみません。コロナの対策とかっていうのが、すごく面白いなと思ったんですよね。そういったいろいろなものが薬になるんだなというのがすごく関心して。
長倉正始
矢野先生 柿渋は昔からインフルエンザにも効くっていうのは分かってたので、新型コロナにも効くだろうと思って試してみたら、実際に効果がありましたので。それは奈良医大の免疫学の伊藤(利洋)教授(*)がもともと柿渋の研究をされてて、新型コロナに効くんじゃないかということを私のところに来られて一緒に検証してくれないかということで。それで検証してみたらやっぱり効いたんです。
(*)奈良県立医科大学免疫学講座 教授。
矢野先生 その伊藤先生のところと、お菓子のカバヤさんのタブレットというかラムネみたいな飴玉、そこに柿渋を入れて、例えばそれを舐めて5分後の唾液を取り出して、それとウイルス液を接触させると、新型コロナの感染力が99%以上落ちてましたということでこの前
プレス発表もありました。なので、もちろん本当は人に使って臨床研究が必要になるんですけども、そういった昔からあるもので新型コロナウイルスの感染症対策ができる可能性を検討してみていいんじゃないかというふうに思います。
なるほど。そうやって見てみると、こういうウイルスとか細菌の世界っていうのは全然目に見えないので、例えば過去からある漢方とか、そういった昔から薬効があるといわれてるようなものを調べると、もしかしたら本当にいろいろな可能性があるかもしれないと想像が膨らみますよね。
長倉正始
矢野先生 そうですね。他の例がまだ出てくるかと思います。
藍、お茶とウイルス
矢野先生 例えば染め物ですね、アイ(藍)。あれもむちゃくちゃ効果があるってわけじゃないんですけども、新型コロナウイルスを不活化してくれます。
普通に茶葉で入れたお茶とかも新型コロナウイルスを不活化するっていうのもこの前、
11月ぐらいに発表させてもらったんですけども。先人の知恵で言えば、例えば紅茶なんかも昔はインフルエンザの対策になるっていうのは言い伝えがあったようで、昔は科学的に検証できなかったことが今は検証できますので、そういった先人の知恵を借りて、いろいろ試してみたいとも思っているところです。
そうなんですね。先ほどおっしゃっていた絶対の対策ではないんですけど、いろいろそうやって効果のあるものをいろいろ組み合わせてやっていくというのはいいですね。
長倉正始
矢野先生 そのうちの一つでもアイテムになってくれればいいかなと。
そうですよね。お茶でも、緑茶と紅茶でもかなり効果が違うっていうのがあったと思うんですけど、あれは発酵過程でですかね。
長倉正始
矢野先生 紅茶のほうが確かにいいんですけど、お茶も茶葉で入れたものであれば、十分効果はあります。
長倉正始
矢野先生 紅茶のほうが若干いいんですけれども、緑茶も十分効果ありますので、さっきの感染症対策の一つになっていく可能性はあるかもしれないと思います。
分かりました、ありがとうございます。
すごく緊張しちゃって、堅苦しくなっちゃって申し訳なかったのですけれど、本当に勉強になりました。ぜひ柿渋とかお茶とか、いろいろ今後も新たな発見をお願いします。楽しみにしています。
長倉正始
矢野先生 ありがとうございます。
長倉正始
インタビュアーのひとこと
医療行為は多くの場合、起きてしまったことに対して行われます。そして一番いいのは起こらないことですが、その背景には多くの文化的な営みがあるのかもしれません。
矢野先生がインタビューでおっしゃっていたように「100%の感染症対策はできないけれども、それぞれでできることを組み合わせてリスクを減らしていく」というのは、感染症を見続けてきた方ならではのすごく重要な目線だと感じました。
ワクチンや手洗いうがい、マスク、換気など様々な方法があり、それらを組み合わせて使うことが重要で、オゾンに関してももちろんそうだと思います。
オゾンには空間にあまねく散布でき、ある程度の時間がたつと酸素に戻るという特徴があります。
それらの特徴を踏まえ、しかるべき場所にしかるべき時間で、効果がありかつ安全な濃度で使っていく。そういった地味な行為の積み重ねが防疫という意味では重要なことなんだとインタビューを通して感じました。
インタビュー中にも出ていますが、矢野先生は柿渋やお茶、藍など、伝統的なものにも焦点をあて、実験をしています。これは耐性菌の研究をしている矢野先生ならではの発想なのかなと思い、非常に興味深く思いました。
抗生物質や抗菌薬は効果が劇的であり便利なものですが、一方でその使いやすさゆえにそれに頼りすぎてしまっている医療行為の偏りが、薬剤耐性菌の問題に表れているとも言えます。
柿渋やお茶、藍などは抗生物質や抗菌物質と比較して効果はそれほど劇的ではないかもしれないですが、気軽に取り入れることができ、取り入れることで生活に彩りを与えます。
もしそのような暮らしの中で続けられる楽しい方法で感染症予防ができるなら、いざというときにクスリという上手な使い方ができればいいのかなと思いました。もちろん、しかるべき場所にしかるべき使い方の範囲で。
今回お忙しい中、インタビューを快く引き受けていただき、ありがとうございました。大変勉強になりました。
このインタビューを読んだ方がウイルスやオゾンのことをより深く知る助けになればうれしい限りです。
(インタビュー内容は取材当時のものです。所属、業務内容などは現在では変更となっている場合があります。)