塩素剤で確実な殺菌作用を得るためには? 水のpHと塩素の関係を知ろう【塩素マニア・立川眞理子の連載 #3】

こんにちは。立川眞理子(*)です。また塩素の話です。

前回は水の消毒について話しました。今回は塩素に対する水のpHの影響です。

(*)環境衛生コンサルタント。元日本大学教授。

記事中の図版・写真の無断転載は禁止とします。

〈前回の記事はこちら〉

残留塩素の意義は? 不連続点処理って? 水の消毒を知ろう【塩素マニア・立川眞理子の連載 #2】

 

水素イオンと水酸化物イオンの濃度が水(水溶液)のpHを決める

水(水溶液)の性質について酸性中性そしてアルカリ性などと分類しますよね。その違いは重要で、水中での化学反応に強く影響します

酸性は酸っぱさ(果汁やお酢)、アルカリ性はヌルヌルさ(石けん)などとして感じられていると思います。しかし、その程度や境目は言葉でははっきり言い表せませんよね。

 

pH(ピーエイチ、ペーハー)はそれら酸性、中性、アルカリ性という水(水溶液)の性質を数値として表す重要な単位です。

その分類の基となるのが、水中の水素イオン濃度です。

 

水は安定な物質ですが、実は式(1)に示すように水分子(H2O)のごく一部が水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH)に分かれています。これを解離とも呼びます。

この解離したH+とOHのバランスがpHを決めますH+が多いと酸性、OHが多いとアルカリ性、H+とOHが等しい時は中性となります。

水の解離
  1. H2O ⇄ H+ + OH

水素イオンと水酸化物イオンはどのようにpHを決めているか

ちょっと理論的な話をします。

 

純水では水素イオンH+と水酸化物イオンOH濃度が等しく中性であり、25℃での濃度はどちらも10-7mol/L($ \frac{1}{10^{7}} $ mol/L)です。

pHの定義はH+濃度の逆数を常用対数で示したものなので、この時、値は7となり、中性の水のpHが「7」に決まります

molとは
mol(モル):6.022×1023個の要素粒子(原子、分子、イオン、電子など)または要素粒子の集合体(組成が明確にされたものに限る)で構成された系の物質量。
逆数、常用対数とは
逆数(ぎゃくすう)と常用対数(じょうようたいすう):逆数は、ある値に対してかけ算をすると答えが1になる値のこと。
ここでは、H+濃度 $10^{-7} = \frac{1}{10^{7}} = $ $ 0.0000001 $ の逆数は $ 10^{7} = \frac{10^{7}}{1} = $ $ 10000000 $。
その常用対数をとると $ \log_{10} 10^{7} $ となる。$ \log_{10}⁡ 10^{7} = $ $ 7 \log_{10} ⁡10 = $ $ 7×1 = 7 $ より、中性の水のpHは7。

 

H+が増えるとpHは 小さくなり、酸性になりますH+が減るとpHは大きくなり、アルカリ性になります

pH 6の水のH+濃度はpH 7の水の10倍高く、逆にpH 8の水のH+濃度は pH 7の水の10分の1であることを示しています。

10-6(= 0.000001)は10-7(= 0.0000001)の10倍の値で、10-8(= 0.00000001)は10-7の10分の1の値だからですね。

 

純水のpHは7ですが、身の回りの水のpHは溶け込んだ物質やガスなどによって変わります。水道水はpH 6.5付近、井戸水はpH  7~8、海水はpH 8.0~8.5、温泉水ではさらに強い酸性やアルカリ性を示すことがあります。

 

pH、少し身近になりましたか? で、ここからが今回の本題塩素に対するpHの影響です。

 

pHは塩素にどんな影響を及ぼすか

水道や水泳プールなどで使用されている塩素剤が水に溶解した時の反応式を式(2)-(5)に示しました。水に溶けると次亜塩素酸(HClO)が生じます(矢印の右側になります)。

塩素剤が水に溶解した時の反応式
  1. 液体塩素(塩素ガス)
    Cl2 + H2O → HClO + H+ + Cl
  2. 次亜塩素酸ナトリウム
    NaClO + H2O → HClO + Na+ + OH
  3. 次亜塩素酸カルシウム(サラシ粉)
    Ca(ClO)2 + 2H2O → 2HClO + Ca2+ + 2OH
  4. トリクロロイソシアヌル酸(*)i)
    Cl3Cy + 3H2O → 3HClO + H3Cy
(*)トリクロロイソシアヌル酸について

  • 塩素化イソシアヌル酸として、トリクロロイソシアヌル酸(下図、有効塩素含量91.6%)、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(有効塩素含量64.5%)などがありますi)。これらは固形(顆粒状)の有機塩素剤で、水に溶解すると次亜塩素酸を生じます。用途として、水泳プール水・浄化槽放流水の殺菌消毒のほか、公衆浴場水・台所・浴槽の洗浄、クレンザー用、家庭用および業務用漂白剤などがあります。
トリクロロイソシアヌル酸
トリクロロイソシアヌル酸の構造式(分子式Cl3C3N3O3、略式表示Cl3Cy)

 

同時にH+やOHが生じていますが、これは低濃度なので水自体のpHにはほとんど影響しません。しかし、一方で溶解した水のpH から次亜塩素酸は影響を受けます

次亜塩素酸の解離と反応性の強さの変化:酸解離定数

次亜塩素酸の解離
  1. HClO ⇆ H+ + ClO pKa : 7.53

 

式(6)に示すようにpHがアルカリ性に傾くと右側に反応が進み、次亜塩素酸(HClO)は水素イオン(H+)を放し(解離し)次亜塩素酸イオン(ClO)になります。逆に酸性になると反応は左側に進みます。

その様子を図1に示しました。

pHによるHClOの変化
図1 pHによるHClOの変化(15℃)
White, 1999ii) から立川作図

 

pH 5ではほとんどがHClOとして存在しますが、pHが増加するにつれてHClOは減少し、ClOが増加します。pH 7.5付近でHClOとClOが50%ずつになっています。

ちょっとはしょりますが、この値をHClOの「酸解離定数」(pKa)と呼んでおり、水に溶けている分子の解離(H+の生じやすさ)の目安になっています。

 

一方、pHが酸側に傾き4より小さくなるとHClOは塩素分子(塩素ガス、Cl2)を生成します。水中の塩素(次亜塩素酸 HClO)はpHによってCl2、HClO、そしてClOと形を変え、その反応性も変化します

反応性が一番高いのはCl2で、次はHClO、ClOの順です。殺菌力の強さも同様の順なのですが、有害なCl2の生成は避けなくてはなりません

次亜塩素酸ナトリウムを用いた商品に「(酸素系の商品とは)まぜるな危険」と書いてあるのは、この有害なCl2の発生を避けるためです。

塩素剤で確実な殺菌作用を得るためには

図2にはHClO、ClO、そして結合塩素のアンモニアクロラミン(NH2Cl)それぞれの大腸菌に対する殺菌作用を示しました。

次亜塩素酸、次亜塩素酸イオンおよびアンモニアモノクロラミンによる大腸菌(E.coli)の殺菌作用
図2 次亜塩素酸(実線)、次亜塩素酸イオン(点線)およびアンモニアモノクロラミン(破線)による大腸菌(E.coli)の殺菌作用、(水温2-6℃)
Clarke et al., 1964iii) から立川作図

 

HClOの殺菌作用はClOに比べて70~80倍、NH2Clの300~400倍高いことが分かります。

 

ClOでの殺菌作用の低下は、HClOが解離してイオン(ClO)になることにより反応性が落ちることや、細菌膜に対する透過性が低下することなどが原因と考えられます。HClOを主成分とする薬剤を用いて確実な殺菌作用を得るには、対象水のpH(pH 5~8が望ましい!)に注意を払うことが重要です。強酸や強アルカリの水の消毒には次亜塩素酸系薬剤は向いていません。

 

pH が8を超える海水の消毒殺菌には、次亜塩素酸よりも酸解離定数が大きい臭素系薬剤や、アルカリ性で安定なモノクロラミン(NH2Cl)などの使用が考えられます。

水のpHは結合塩素の生成にも影響する

水のpHは結合塩素の生成にも影響を及ぼします。

アンモニア(NH3)とHClOから生成するクロラミンとしてNH2Cl、NHCl2そしてNCl3の3種類のクロラミンがあると前回述べました。どのクロラミンが生成するかは、NH3とHClOの濃度比だけでなく水のpHによっても変わります

 

NH3とHClOの濃度が等しい場合でもpH 4付近ではNCl3、pH 6付近ではNHCl2、そしてpH 9付近ではNH2Clが多く生成します。

NCl3は屋内水泳プールでの強い塩素臭の原因と考えられ、水が酸性に傾くとその生成は増加するのでpHからは目が離せません。

 

おわりに

繰り返しになりますが、塩素剤による確実な殺菌効果を得るためには、水のpHに注意を払うことが重要であることを理解していただけたなら幸いです。

 

pHについてはだいぶ大まかな説明をしました。もっと詳しく知りたいという方には株式会社堀場製作所さんがインターネットに掲載している水質計測の総合サイト「LAQUA」を勧めます。親切で分かりやすいと思います。

参考 やさしいpH・水質の話堀場製作所 水質計測総合サイト LAQUA

 

次回は塩素の測定法について述べようと思っています。では、また!

 

📚 参考文献

  1. 四国化成. 製品情報: 塩素化イソシアヌル酸. https://www.shikoku.co.jp/products/chemical/organic/cyanuric-acid.php
  2. G.C. White. Handbook of Chlorination and Alternative Disinfectants, 4th ed. NY, John Wiley & Sons, Inc., (1999), pp. 217-219.
  3. N.A. Clarke, G. Berg, P.W. Kabler, S.L. Chang. “Human Enteric Viruses in Water: Source, Survival and Removability,” International Conference on Water Pollution Research, held in London, September 1962. NY, Pergamon Press, (1964), Appeared in 2) p. 276.

 

〈立川先生の連載記事一覧〉

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