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クロラミンについて知ろう【塩素マニア・立川眞理子の連載 #5】

👨‍🎓 塩素上級者向け 👩‍🎓
この記事は塩素上級者の方向けです。

こんにちは。立川眞理子(*)です。

お待たせしました。今回はクロラミンの話です。前回は「次はクロラミンについて話します!」と述べて終わりましたが、長い時間がたってしまい申し訳ありません。

(*)環境衛生コンサルタント。元日本大学教授。

〈前回の記事はこちら〉

水中の有効塩素濃度(残留塩素)の測定について知ろう【塩素マニア・立川眞理子の連載 #4】

 

塩素消毒におけるクロラミン(結合塩素)の生成は水中溶存物質により異なりますが、遊離塩素の殺菌効果に影響を与え、かつ、水中での活性塩素(酸化力を持つ塩素化合物)の寿命や反応性を変えます。塩素処理のわき役のようにも見えますが、無視できない存在であり、時には主役になることもあります。

 

クロラミンについては連載の第2回で、塩素を用いた浄水処理を取り上げ、その際に生じるアンモニアクロラミンの生成と分解(不連続点反応)についてお話ししました。

残留塩素の意義は? 不連続点処理って? 水の消毒を知ろう【塩素マニア・立川眞理子の連載 #2】

 

アンモニアクロラミンはクロラミンの中のクロラミンと言えるぐらいとても重要なクロラミンですが、ここからはもう少しクロラミンの範囲を広げ、筆者の研究チームが以前に行った実験・研究を通して浮かび上がった個性あるクロラミンの姿をお知らせすることを目指して書き進めたいです。

 

クロラミンの定義

まずは[クロラミン, chloramine]の定義から。

クロラミンはアミノ基(-NH2)やイミノ基(=NH)などをもつ窒素化合物と塩素(Cl+)が結合して生成する有効塩素化合物です。結合塩素とも言いますね。

水環境中には動植物由来の窒素化合物が常に(いつでも)、多様に(いろいろ)、確実に(そこそこ)存在しています(*)。ですから塩素処理と同時に多種多様なクロラミンが生成します。アンモニアクロラミン、アミノ酸やペプチドのクロラミンなどなど。その寿命も、生成するとすぐ分解してしまうものもありますが、中には数日間安定なものもあります。

 

多くの場合、クロラミンの生成は遊離塩素の殺菌効果を低下させたり、また臭気を生じたりするので、その生成を把握することが塩素処理の効果や環境影響を正しく判断するために必要です。

環境水中の含窒素化合物について
環境水中の含窒素化合物(*)はさまざまに姿を変えて生物循環に携わっています。
無機性窒素:アンモニア、亜硝酸塩、硝酸塩
有機性窒素:タンパク質(ペプチドを含む)、アミノ酸、核酸、尿素など

 

では、クロラミンの生成はどのようにして知ることができる?

クロラミンの生成はどのようにして知ることができるでしょうか。

環境水の塩素処理でのクロラミンの生成は、前回お話しした残留塩素測定法により知ることが出来ます(もう一度、参照してくださいね!)。

水中の有効塩素濃度(残留塩素)の測定について知ろう【塩素マニア・立川眞理子の連載 #4】

多様で、低濃度でしかも不安定なクロラミンですから、生成現場で測定することが原則です。

 

測定方法の一つは電流滴定法で、電流の変化を指標にして水中の遊離塩素と総残留塩素をそれぞれ測定し、その差(総残留塩素-遊離塩素)が結合塩素となります。

もう一つが呈色法で種々の試薬を用いた方法があります。現在最も使用されているのがDPD法だと思います。DPD法はDPD(N,N-Diethyl-p-phenylenediamine)試薬の呈色(赤紫色)を基にしています。試薬を添加すると直ちに発色する画分(**)が遊離塩素であり、ヨウ化カリウムを加えて発色する画分が結合塩素とされます。

画分とは
画分(**)(かくぶん):混合物質を構成する成分に分けること。例えば残留塩素は遊離塩素、結合塩素(場合によってはモノ型、ジ型)画分から成る混合物質と言えます。ここでの画分(**)は、ある操作により区分けして測定される部分(量)を指しています。

どのようなクロラミンができているのかはわからない?

DPD法では、発色に要する触媒(ヨウ化カリウム)の量により結合塩素をモノクロラミン型やジクロラミン型に分けることが行われています。この区分は個々のクロラミンの化学形(-NHClもしくは-NCl2)を示すものではなく、そのクロラミンの反応性を示すものであることは前回記事の測定法でもお話ししました。

 

ここにきて「それでは濃度は量れても、どのようなクロラミンができているのかわからないのでは?」と思われたでしょうね。そうなのです。クロラミンをモノクロラミン型やジクロラミン型には分けることはできますが、例えばXというクロラミンを特定して測定することは環境水では難しいのです。

どのようなクロラミンが生成しているのか、無機性もしくは有機性のどちらかであるか等を知るためには水中のアンモニア性窒素やケルダール性窒素(***)の測定など、溶存物質の分析が行われます。

ケルダール性窒素とは
ケルダール性窒素(***):試料水を硫酸酸性下で加熱濃縮して有機性窒素を分解した後、アルカリ性にして蒸留し、流出液のアンモニア性窒素を定量して得られる、アンモニア性窒素および有機性窒素の合計量のことです。

有機性窒素=ケルダール性窒素-アンモニア性窒素

 

クロラミンの化学的な性質

次はクロラミンの化学的な性質についてです。

加水分解定数

多種多様なクロラミンの酸化作用を理解するために化学的な側面からの検討が行われてきました。その指標の一つが加水分解定数です。

窒素化合物と次亜塩素酸から生成したクロラミンは水中で水分子と反応して(つまり加水分解を受け)、その窒素原子(N)に結合した塩素原子(Cl)は式(1)に示すように一部は次亜塩素酸(HClO)に戻ります。この付いたり離れたりの度合いは各種のクロラミンによってそれぞれ異なります。

加水分解定数
  1. RR’NCl + H2O ⇄ RR’NH + HClO
  2. 加水分解定数(Kh) = [HClO][RR’NH]/[RR’NCl]

加水分解定数(Kh)は水中での塩素(Cl)の離れやすさ(矢印→)を示す指標と考えることができます。

 

表1に代表的なクロラミンの加水分解定数を示しました。例えばプール消毒などによく使われているジクロロイソシアヌル酸塩(Kh ≈ 10-41)は水に溶けると直ちに加水分解して次亜塩素酸を生じ、DPD法では遊離塩素として測定されます。一方、加水分解定数の小さいアンモニアモノクロラミン(NH2Cl, Kh ≈ 10-101)は加水分解を受けにくく、水中でもそのままの形で存在しておりDPD法では結合塩素として測定されます。

加水分解定数が水中の遊離塩素濃度を反映するので、いわゆる殺菌効果もこの加水分解定数が影響すると考えられます。しかし加水分解定数が小さくなると(Kh < 10-6)、殺菌効果は単純な加水分解定数の大小では説明できなくなります。

クロラミン 加水分解定数1), 2) DPD法での発色
トリクロロイソシアヌル酸 6.7× 10-41) 遊離型
ジクロロイソシアヌル酸塩 3× 10-41) 遊離型
N-クロロこはく酸アミド 1.9× 10-82) 遊離型で徐々に発色
クロラミン-T 4.9× 10-81) 結合型(モノ)
アンモニアモノクロラミン 2.8× 10-101) 結合型(モノ)
N-クロロジエチルアミン 5.5× 10-122) 結合型(モノ)

表1 クロラミンからのHClO生成:加水分解定数とDPD法での発色区分

塩素化速度

次の指標は塩素化速度です。

表1に出ていたN-クロロこはく酸イミドは塩素化剤や酸化剤として使用されています。Higuchiら2)はこのN-クロロこはく酸イミドを用いてクロラミン(N-クロロ窒素化合物)において、加水分解を経ない直接の塩素化が生じていることを示しました2)N-クロロこはく酸イミド水溶液について有効塩素をDPD法で測定すると、次亜塩素酸に比べてゆっくりですが、直接DPDを酸化し遊離型区分で呈色します。

 

そこで私達のチームでは各種クロラミンによる塩素化速度を測定することを試みました3), 4)。モノクロロジメドンは体内酵素のクロロペルオキシダーゼ活性を測定する際に用いられる試薬で、塩素化を受けると290nmの吸収を失います。次亜塩素酸を作用させると瞬時に塩素化を受けその吸収が消えますが、種々の窒素化合物から調製したクロラミンにおいてはその消失は遅くなり、その過程を記録することができました。そこから種々のクロラミンによる塩素化速度を算出しました。その一部を表2に示します。

得られた速度はクロラミンにより大きく異なり、中でもアンモニアモノクロラミンの塩素化速度は他のクロラミン類に比べて小さいものでした。すなわち、アンモニアモノクロラミンは他に塩素を渡しにくい化合物であったのです。

クロラミン MCD塩素化速度 k(min-1
15℃a), 25℃b) at pH 7
クロラミン-T 0.257b)
N-クロロこはく酸イミド 7.488a)
アンモニアモノクロラミン 0.062b)
N-クロロジエチルアミン 1.540b)
N-クロログリシン 0.164b)

表2 各種クロラミンのモノクロルジメドン(MCD)塩素化速度3), 4)

クロラミンによるポリオウイルス不活化作用

私達のチームはそれまでにポリオウイルスに対する次亜塩素酸や塩素化イソシアヌル酸の不活化作用を調べていましたので、アンモニアモノクロラミンを含む数種のクロラミンによるポリオウイルスへの不活化作用を検討しました5)

 

実験に用いるウイルス浮遊液は培養細胞内でウイルスを増殖させ、一定時間後に細胞を融解させて得た細胞培養液(MEM)の上清液です。したがってこのウイルス浮遊液(MEM浮遊液)には多くの有機物が含まれています。有効塩素化合物による不活化にはこの有機物が大きな影響を与えることが考えられます。

そこで細胞融解直前に細胞培養液(MEM)をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に置換して有機物含量の少ないウイルス浮遊液(PBS浮遊液)も調製して、両方の浮遊液での不活化作用を調べました。

 

用いたクロラミンは①クロラミン-T、②N-クロロこはく酸イミド、③アンモニアモノクロラミン、④N-クロロジエチルアミン、そして⑤N-クロログリシンクロラミンの5種です。各クロラミン溶液の有効塩素濃度は8-11mg/Lです。作用1分後と3分後の不活化率を表3に示しました。

ポリオウイルス不活化(%)
pH 7, 20℃
クロラミン 作用塩素濃度
(as Cl2 mg/L)
作用時間(1分) 作用時間(3分)
MEMa PBSb MEMa PBSb
クロラミン-T 10 - 11 78 65 92 95
N-クロロこはく酸イミド 10 30 70 93 99.7
アンモニアモノクロラミン 10 82 88 98.2 98.7
N-クロロジエチルアミン 8 - 10 50 60 60 95
N-クロログリシン 8 10 50 30 80
ポリオウイルス不活化(%)
pH 7, 20℃
クロラミン 作用塩素濃度
(as Cl2 mg/L)
作用時間(1分) 作用時間(3分)
MEMa PBSb MEMa PBSb
クロラミン-T 10 - 11 78 65 92 95
N-クロロこはく酸イミド 10 30 70 93 99.7
アンモニアモノクロラミン 10 82 88 98.2 98.7
N-クロロジエチルアミン 8 - 10 50 60 60 95
N-クロログリシン 8 10 50 30 80

a:MEM(細胞維持液)を用いたウイルス浮遊液を使用
b:MEMをPBS(リン酸生理食塩水)に置き換えたウイルス浮遊液を使用

表3 各種クロラミンによるポリオウイルス不活化作用(%)およびウイルス浮遊液の影響5)
立川ら5)に掲載の図を基に立川が作成
※表が横に長いため、スマホなどでは横方向にスクロールできます

 

クロラミンTとアンモニアモノクロラミン作用試験液ではMEMとPBSのウイルス浮遊液の違いによる不活化率への影響は僅かでしたが、残りの3つのクロラミンでは、特に短時間でMEM浮遊液での不活化率が低く、試験液中の有機物の影響を受けることが示唆されました。試験溶液中の残留塩素濃度はクロラミン-TとN-クロロこはく酸イミドで20-30%の減少がありましたが、他のクロラミン試験溶液ではほとんど変化しませんでした。アンモニアモノクロラミンにスポットを当てると、試験溶液の有機物含量による不活化作用への影響は他のクロラミン試験液に比べて小さく、時間の経過に伴い着実に不活化作用が進むことが分かりました。

 

この結果からの推測ですが、アンモニアモノクロラミンの遅い塩素化速度が環境水中の有機物などからの影響を受けにくくし、標的(ウイルス)に届く確率を高くしているのではないでしょうか? さらには標的(ウイルス、細菌など)に届いた後の浸透や酸化作用を介した殺菌作用メカニズムも次亜塩素酸とは異なるであろうと感じており、興味が尽きません。

 

おわりに

ここでは触れませんでしたが、バイオフィルム(環境中に作られる微生物の集合体)に対してもクロラミン類の着実な作用は観察されています6)。対象の環境や目的によりますが、消毒殺菌剤としてクロラミンが着実で有効な場合があることを知ってくだされば幸いです。

 

少し大げさですが、塩素処理において遊離塩素は機関銃でクロラミンはスナイパーとの例えを聞いたことがあります。遊離塩素が機関銃であることはその高い反応性から説明なしでも感じていただけると思いますが、どうしてクロラミン(おそらくアンモニアクロラミン)がスナイパーに例えられるかについてその片鱗が見えた気がしますが、いかがでしょうか?

 

次回はなかなか消えない結合塩素〈クレアチニンの塩素処理〉について話したいです。

 

📚 参考文献

  1. H.L. Robson, “Chloramines and Chloramines, Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,” Vol. 4, 2nd ed. John Wiley and Sons Inc., (1964), p. 913.
  2. T. Higuchi, J. Hasegawa, Rate of exchange of chlorine between dimethylchloramine and succinimide. J. Phys. Chem. 1965, 796.
  3. M. Tachikawa, M. Tezuka, R. Sawamura, Chlorination of monochlorodimedone with chloramines I. Kinetics of the chlorination. Jpn. J. Toxicol. Health, 39 (3), 202 (1993).
  4. M. Tachikawa, M. Tezuka, R. Sawamura, Chlorination of monochlorodimedone with chloramines II. Chlorination rate constants for chlorinated nitrogenous compounds. Jpn. J. Toxicol. Health, 39 (4), 297 (1993).
  5. 立川眞理子, 松野綾子, 手塚雅勝, 澤村良二. 各種クロラミンによるポリオウイルスの不活化. 衛生化学. 43 (4), 230 (1997).
  6. M. Tachikawa, M. Tezuka, M. Morita, K. Isogai, S. Okada, Evaluation of some halogen biocides using a microbial biofilm system. Water Research, 39, 4126 (2005).

 

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