ゴールデンウィークはカレンダー通り営業いたします。

【ツール紹介】 オゾン水平衡濃度計算シート

本稿では、オゾン水の濃度を事前に予測するための便利なツールを提供いたします。

 

ヘンリー常数について

 

※本項目は若干難解ですので、お急ぎの方は読み飛ばして頂いても、計算シートの使用は可能です。

 
気体の液体に対する溶解性を表す指標(溶解度)は、溶解度係数、ヘンリー常数、分配係数などが用いられますが、本稿では主にヘンリー常数を用います。
 

H:ヘンリー常数とは


溶解度が小さい気体の場合、気液平衡状態において気相における分圧(atm)は溶液中の溶質のモル分率に比例する。物質Bのヘンリー常数Hは液中で溶質Bのモル分率XBと気相におけるBの分圧PBとの比例常数として、次式で定義される。すなわち、Hが小さいほど溶けやすいことを意味する。1)

 

H=PB/XB

 
オゾンのヘンリー常数はおよそ酸素(O2)の1/10程度、窒素(N2)の1/20程度、二酸化炭素(CO2)の2.5倍程度となります。つまり、酸素の10倍、窒素の20倍溶けやすく、二酸化炭素より2.5倍溶けづらいということです。

このようにオゾンが酸素や窒素に比較して溶けやすい気体であるということは、私達がオゾン水を作る上で有利に働いています。もし、オゾンのヘンリー常数が酸素と同じ程度であったのならば、オゾン水の濃度は10倍ぐらい上げづらくなるはずです。

 

RothとSullivanの計算式について

 
オゾンの溶解度の値は様々な研究者によるデータがありますが、実用上、当社で一番のお薦めはRothとSullivanが1981年に発表した論文中にある以下のヘンリー常数の計算式です。2)

H=3.842×107[OH-]0.035exp(-2428/T)

こちらは当社が何度か実際に実験した計測値と高い精度で一致することを確認しています。また、水温やpHなどが変化しても計算可能なので大変使いやすいです。※1

 

※1 このRothとSullivanの計算式にはpHの影響が含まれておりますが、その信頼性については議論の余地が残されているとされています。pH依存性があまりにも大きすぎるのではないかという疑問が出されています。3)

 

pHの変化については当社では、溶解させるオゾンガスに炭酸ガスを混ぜることによりpHを下げることで、オゾン水平衡濃度が上昇することは確認しておりますが、その他に詳細なデータの取得は行なっておりません。また、pHを変化させるためには、酸もしくはアルカリの薬液等を混入させる必要がありますが、それらの薬液等とオゾンとの反応なども影響するため、複雑な課題を孕んでいるものと思われます(RothとSullivanはpHの制御にりん酸-硫酸及び水酸化ナトリウム緩衝液を用いたとのことです4))。

オゾン水平衡濃度計算シートについて

当社ではこのRothとSullivanの計算式を用いて、エクセル上でオゾン水平衡濃度の計算ができる計算シートを作成しました。

オゾン水平衡濃度計算シート

以下のリンク先でダウンロードできますので、お役立て頂ければ幸いです。

 

オゾン水平衡濃度計算シート

オゾン水平衡濃度計算シートの使い方

 
このシートの使い方について以下にご説明します。

まず、オゾン水平衡濃度とは何かといいますと、以下の図1をご参考下さい。

図1.オゾンの水への溶解試験系統図例

 

例えばこのような系統でオゾンガスを水にバブリングし続け、溶解させる時、密閉容器内のオゾン水濃度の時間的変化は以下のような形状のグラフとなります。

 

図2.密閉容器内のオゾン水濃度の時間的変化

 

ここで密閉容器内のオゾン水濃度はある値に徐々に近づいていきます。その最終的な到達オゾン水濃度=オゾン水濃度の最大値=オゾン水平衡濃度です。オゾン水飽和濃度とも言います。この状態では、オゾン水中のオゾンの分解や、気中から水中に溶けるオゾンの量、水中からガス中に抜けるオゾンの量などがバランスし、オゾン水濃度が変化しなくなった状態であると言えます(図3参照)。

 

図3.オゾン水平衡濃度の説明用図

 

このオゾン水平衡濃度は先ほどのRothとSullivanの計算式から、以下の4つのパラメータによって定まります。
 

  1. C:溶け込ませるオゾンガスの濃度(OGM1の値)
  2. pH:溶け込ませる水のpH(pHの測定値)
  3. t:溶け込ませる水の水温(T1の値)
  4. Pt:溶け込ませる際の容器内圧力(P1の値)

このうち、オゾン水平衡濃度計算シートでは、
 
1.溶け込ませるオゾンガスの濃度と、
2.溶け込ませる水のpHを入力することで、
3.溶け込ませる水の水温および
4.溶け込ませる際の容器内圧力が変化した際のそれぞれのオゾン水平衡濃度

 
が算出されるようになっています。
 

実践例

 
それでは、例として、実際にエコデザインで行った試験のブログ記事のデータから、オゾン水平衡濃度を計算してみましょう。以下のリンク先をご参考ください。
 

【オゾン水生成】バブリング30分で100ppmの超高濃度オゾン水は実現できるか?

https://moto.ecodesign-labo.jp/highly-concentrated-100ppm-ozone-water/
 

ここでは、オゾン水平衡濃度に関わる4つのパラメータの内、水温のみしか記載されていないため、他の3つは推測するしかありません。以下のように推測します。
 

1.C:溶け込ませるオゾンガスの濃度:180g/Nm3
2.pH:溶け込ませる水のpH:7
3.t:溶け込ませる水の水温:10℃
4.Pt:溶け込ませる際の容器内圧力:0.1MPaG⇒2atm

 
これらの値(1、2)を計算シートに入力してみると以下のように計算されました。

 

 
3、4の値がそれぞれ10℃、2atmだった時の値のセル背景色を黄緑色にしています。つまり、112.6ppmがオゾン水平衡濃度です。

先ほどのブログ記事では、最終的な到達オゾン水濃度は99ppmであったとのことでしたので、若干のずれがありますが、パラメータが推測であることを加味すればかなり近い値であると言えるのではないかと思います。

以上でオゾン水平衡濃度計算シートの説明を終わりますが、ご不明な点や気になる点等ございましたらお気軽に当社宛てお問合せください。
 

📚 参考文献

1.杉光秀俊.オゾンの基礎と応用,光琳,1996,34p.
2.J.A.Roth and D.E.Sullivan, Ind. Eng. Chem. Fundam.,20,137(1981).
3.杉光秀俊.オゾンの基礎と応用,光琳,1996,41p.
4.杉光秀俊.オゾンの基礎と応用,光琳,1996,39p.