低濃度オゾンによる新型コロナウイルス不活化の研究発表について、オゾン発生器メーカーが解説してみました

2020年8月26日に、藤田医科大学さん0.05ppm、0.1ppmのオゾンガスでも長時間をかければ新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の不活化が認められるとの基礎研究成果を発表されました。このような低濃度領域の条件での研究結果は初となります。

参考 本学の村田貴之教授が人体に安全な低濃度オゾンガスで新型コロナウイルスを不活性化できる事実を世界で初めて発見しました藤田医科大学 プレスリリース

こちらの発表はインパクトがありますので、データが独り歩きしてオゾンの誤った使い方が広がってしまわないかを心配しています。

そこで、オゾン発生器メーカーとして少し解説をしてみようと思います。是非お付き合いください。

 

条件として重要な「湿度80%」

今回の発表の要旨は以下です。

  • 湿度80%の空間において0.1ppmのオゾン濃度を保つと、10時間経過後には新型コロナウイルスの感染性が4.6%まで低下した。
  • 湿度80%の空間において0.05ppmのオゾン濃度を保つと、20時間経過後には新型コロナウイルスの感染性が5.7%まで低下した。
  • 一方、湿度50%の空間において0.1ppmのオゾン濃度を保つと、10時間経過後には新型コロナウイルスの感染性が32%までの低下にとどまった。

 

この発表には、オゾン消毒の指標となる「CT値」の考え方が使われています。CT値は全て60となっています。上から0.1ppm×600分、0.05ppm×1200分、0.1ppm×600分ですね。

CT値といえば、奈良県立医科大学さんがやや高濃度のオゾン(1ppm、6ppm)の場合での新型コロナウイルスの不活化について発表され、話題になったのが記憶に新しいです。

CT値やppmと、奈良県立医科大学さんの発表については過去の記事をご参考ください。

【用語解説と実験】オゾン消毒のやり方と、指標「CT値」の意味(動画解説) 【単位解説】初級編「10分でわかるオゾン濃度ppmの意味」(動画解説)

  

藤田医科大学さんの発表では、0.1ppm×600分の場合(CT値60)に4.6%まで感染性が低減したとあります。

これは「CT値60(1ppm×60分)で90~99%不活化された」という奈良県立医科大学さんの発表(90~99%の範囲)にちょうど重なり、CT値60での効果の程度が再検証された形とも見ることができます。

 

ただし、藤田医科大学さんの発表が奈良県立医科大学さんの発表と異なるのは、湿度条件が明記されていることです。

オゾンの脱臭や消毒の効果を高めるには、空間内の湿度条件が必要とされていることが知られています。オゾンが湿度(水)と共存することで、オゾンよりも酸化力の強いOHラジカルなどの活性酸素種が生成されるためです。 

今回の藤田医科大学さんの研究においても、湿度が「80%」と「55%」とでは効果が大きく異なることが示されています。

 

「0.1ppm×10時間、湿度80%で4.6%まで低減」に対して、同じ濃度・時間でも湿度55%では「32%まで低減」にとどまっていることはとても重要な点と言えます。

言い方を換えれば、「低濃度のオゾンは、高い湿度を伴わなければ新型コロナウイルスへの効果が限定的である(低い)」ということが明らかとなったからです。

決して、お部屋に低濃度オゾンを撒けば簡単に新型コロナウイルスの感染リスクをなくせるわけではないということです。 

「湿度」そのものがウイルスに効果があるのではなくて、湿度があると「オゾン」の効果が高まるということ

今回の発表について、次のような反応が見られました。

  • 高い湿度は新型コロナウイルスに不活化効果があるの?
  • 夏は湿度が高いから、新型コロナウイルスの効果が弱まるということ?

これらは誤った解釈になりますので、ご注意ください。

ニュースを配信しているメディアの記事の書き方にも原因があったのかもしれません。

 

今回の藤田医科大学さんの発表は、オゾンは高い湿度条件と併用すると効果が高くなるという内容です。

あくまで、オゾンの効果を湿度(水分)が助けてくれるという意味です。単に湿度が高ければいいとか、高い湿度そのものが新型コロナウイルスに不活化効果があるということではありませんので、因果関係にご注意くださいね。

 

藤田医科大学さんの発表はまだ「基礎研究」にすぎない。実地での検証はされていない

もう一つ重要なのは、藤田医科大学さんの発表は、プレスリリースにある通りまだ「基礎研究」として「可能性を示唆」するものにすぎないということです。

研究は、換気や人の出入りなどの起きない密閉空間で、オゾン濃度と湿度を一定に保った場合の不活化効果について示しているだけです。 

なので、実際の現場で低濃度オゾンを新型コロナウイルス対策に用いるには、大きな課題が数多く残されています。 

作業環境基準0.1ppmとの関係

また一方、ご存知の方も多いとは思いますが、高濃度のオゾンは人体に有害です。日本では、日本産業衛生学会の定める作業環境基準として「0.1ppm以下」という基準が定められています。

参考 許容濃度等の勧告について日本産業衛生学会

「オゾン濃度0.1ppm以下」という数値がよく取り上げられているのですが、よく誤解されている条件です。実は、0.1ppm以下なら何でもOKというものではありません。

作業環境基準とは、1日8時間、週40時間程度の労働時間中に、肉体的に激しくない労働に従事する場合の曝露時間の算術平均値がこの数値以下であれば、ほとんど全ての労働者に健康上の悪影響が見られないと判断される濃度なのです。

 

つまり、以下が言えるということになります。

  • 1日8時間以上、0.1ppmのオゾンを吸い続けるべきではない。
  • 週に40時間以上、0.1ppmのオゾンを吸い続けるべきではない。(1日8時間なら週に5日が限度)
  • 肉体労働では、1日の曝露時間はもっと短くなくてはならない
  • 平均値が0.1ppmとなっていれば、0.1ppmを一瞬でも上回ってしまってはならないというわけではない。(ただし、避けられるなら避けるべきである)

しばしば、「0.1ppmであれば24時間吸い続けても大丈夫である」、あるいは「0.1ppmを一瞬でも上回ったら危険である」というような勘違いを見かけますので、ご注意いただければと思います。

 

今回の試験結果の研究成果としての重要性は、作業環境基準以下のオゾン濃度でも高湿度条件ならウイルス不活化の効果が得られたという点にあります。しかし、もし何らかの理由で有人空間でオゾンを用いる場合には、必ずこの作業環境基準以下で使っていただく必要があります。

オゾンの安全性については次回以降のブログ記事のテーマとして予定していますので、ご期待ください。

新型コロナウイルス対策には「換気が重要」である理由が増えたかもしれない?

今回の試験結果は、低濃度オゾンを効果的に使用することで新型コロナウイルスの感染拡大を防止できるという可能性が示されたということで大変貴重なデータが得られたと考えています。

また同時に、0.05ppm~0.1ppmというオゾン濃度は、実は屋外大気中にも存在しうるレベルのオゾン濃度です。(地域や場所によって濃度は異なります。)

参考 気象庁の観測点での地上付近のオゾン濃度の経年変化気象庁 参考 オゾン物語 オゾンの利用……室内空気の殺菌エコデザイン株式会社 オゾンの基礎知識

 

ウイルス感染拡大防止のために換気が重要な理由は、よく知られているように、空間のエアロゾルを簡単に室外に追い出せる一番良い方法であるからということです。

これに加えて、今回このような「大気中にも存在しうる濃度のオゾンでの効果」が認められました。もしかしたらこのオゾンの効果が、ウイルス感染拡大の防止に積極的な換気が重要であるということの論拠を裏付ける要因の新たな一つになる可能性もあるのかもしれないな、というオゾン発生器メーカーとしての希望的観測があります。

 

なぜならば、オゾンは大気中(室外)に存在していますが、一般的なオフィス室内などではほとんどオゾンが存在していないか、あっても室外よりも濃度が低いからです。

また、アメリカ国立生物工学情報センターのPMCでは、「屋外の大気中オゾン濃度が高い地域のほうが新型コロナウイルスの感染効率が低くなる」ことを示唆する論文が発表されています。

参考 The ambient ozone and COVID-19 transmissibility in China: A data-driven ecological study of 154 citiesPMC

 

ありそうなQ&Aにお答えします

今回の藤田医科大学さんの発表を受けて、出てきそうなQ&Aに答えてみました。

 

家庭用オゾン発生器は新型コロナ対策になるの?

Q. 家庭用の低濃度オゾン発生器を使うだけで新型コロナ対策になるの?

A. ならないか、期待薄かもしれません。

 

今回の試験結果は、あくまで0.1ppmや0.05ppmのオゾンを密閉空間でかつ濃度管理・湿度管理を適切に行った上でのものです。

家庭用の低濃度オゾン発生器は、小型ゆえに一方的にオゾンを発生するだけの機能しか持たず、部屋全体のオゾン濃度の一定化(濃度管理)については適切になされていない場合が殆どと思われます。もちろん、湿度管理もされていません。

また、作業環境基準はあくまで1日あたり8時間、週40時間が目安となっており、これ以上の時間の曝露について安全であるとは言えません

したがって、家庭用の低濃度オゾン発生器を使えばすぐに新型コロナウイルス対策になるということは言えません。

 

オゾンは臭いのでは?

Q. 0.1ppmや0.05ppmで効果があるのはいいとして、その濃度というのはかなり臭いのでは?

A. 臭いです。それはもうクサイです。

 

大気中にも自然と発生しうる濃度であり、暫くその空間にいれば鼻が慣れてしまい臭くなくなりますが、嗅ぎ始めはかなり臭く、不快なものと思ってください。

また、湿度が高くなければ効果がかなり薄まるということですから、夏の暑さの中でその高湿度環境に耐えられるのか? という課題点もあります。

今回の試験結果が有人空間で使うのに現実的な濃度であるかどうかは、全く検証が足りていない段階と思われます。

 

0.1ppmの作業環境基準は高湿環境でもOKなの?

Q. 作業環境基準は平均0.1ppm×1日あたり8時間までとなっているけど、この作業環境基準はどの湿度で言えるデータなの?高湿度でもいいの?

A. データが整っておらず、分かりません。(安全か安全ではないか分からないということです。)

 

日本産業衛生学会の定める作業環境基準には、「高温の許容基準」という項目があり、こちらでは高湿についても言及があります。しかしながら、「オゾンを高湿度で使った場合」という条件について直接的に示されているわけではありません

前述したように、高湿度条件ではOHラジカルなどの活性酸素種が増えます。これはウイルスへの効果が高まると同時に、その空間にいる金属部材の錆びや、ゴム部品の劣化、人体への影響の大きさも高める可能性があります。しかしながら現時点では低濃度領域×各種の低~高湿度環境に対する比較研究データが整っておらず、安全ともそうでないとも言えない段階です。

 

光化学オキシダントの環境基準を超えてない?

Q. 0.1ppmのオゾンは光化学オキシダントの環境基準を超えているのでは?

A. その通りです。

 

光化学オキシダントの環境基準は1時間あたり0.06ppmとなっており、0.1ppmはこれを超えています。

過去研究にもあるように、光化学オキシダントについてはオゾンだけではなく窒素酸化物などの生成物による影響が絡み合っているものと考えられます。したがってオゾンのみが基準を超えた場合の人体への影響について光化学オキシダントのものと同一視してよいかどうかは疑問が残り、追加の研究をすべきと思われますが、少なくとも環境基準を超える値であることに違いはありません。

 

人の出入りがあったらダメでは?

Q. 低濃度オゾンで長い時間をかければウイルスが不活化できるとしても、人の出入りがあったら新鮮なウイルスがどんどん追加で運び込まれてしまうのでは?

A. その通りです。

 

今回の研究成果は前述したように密閉空間でかつ濃度管理を適切に行った上でのものです。つまり、10時間前・20時間前からそこにあったウイルスが0.1ppmや0.05ppmのオゾンで不活化できたという結果です。

したがって、人の出入りなどでウイルスが新たに持ち込まれた場合、そのウイルスまでもがオゾンによってすぐさま不活化できるということではありません

 

低濃度オゾンで新型コロナウイルス対策ができると言うには早い?

Q. 低濃度オゾンでの新型コロナウイルス対策を推奨するにはまだそのような現場目線での試験が足りないのでは?

A. その通りです。

 

現時点ではまだ実地ベースでのデータが全く整っておらず、この試験結果だけを見て低濃度オゾンでの新型コロナウイルス対策を推奨するには足りません

オゾンは魔法の薬ではなく、利点と欠点を持ち合わせますので、わけもなく安易に推奨できるソリューションではないと考えます。これは正しい情報を伝えていくべきオゾン発生器メーカーの矜持であると思います。

 

この記事の公開時点では、オゾンをウイルス対策に用いる場合は「高濃度オゾンを人のいない空間・時間に散布し、時間を置いてから換気をする」方法(オゾン燻蒸)を推奨します。この方法では同時に脱臭も行われます。
詳細は過去記事をご覧ください。

【用語解説と実験】オゾン消毒のやり方と、指標「CT値」の意味(動画解説) オゾン発生器を運転した時の室内オゾン濃度を測ってみた

今後、低濃度領域・有人空間でのデータが揃ってきた場合にはこの限りではありません。

 

ちなみに、オゾン水の効果ってどうなの?

Q. ちなみに、オゾン水の効果ってどうなの?

A. オゾン水については、宮崎大学さんと日機装株式会社さんが10ppmにて新型コロナウイルスへの不活化効果を認める研究発表をされています。

参考 オゾン水による新型コロナウイルスの不活化効果を確認日機装 Press Information

ただし、これも藤田医科大学さんの発表と同様、基礎研究にとどまっており、現時点ではどのような濃度でどのくらいの時間をかければ不活化ができるかは示されていません

他のウイルスへの効果から効果の度合いを推測することは可能なのですが、検証はされていないということです。

 

また、オゾン水はエタノールなどと異なり作り置きができませんので、必ず作ったらすぐに使うこと、基本的に水道のようにかけ流しで使わなければ効果が低下するということに注意しなければなりません。

オゾン水を空気中にスプレーで噴霧すれば空間除菌になるということはありませんし、作ったオゾン水に漬け置き(静置)しておけばウイルスが退治できるというものでもありません。

水のひとりでには均一に混ざりにくい性質から、オゾンが消費されたらその部分はただの水になってしまうからです。更には、オゾン水は生成したそばからみるみるうちにただの水に戻ってしまいます。

洗浄・消毒の対象となる物に新鮮なオゾンをぶつけ続ける必要があるので、オゾン水は漬け置きではなく、生成し続けながらかけ流しで使うか、高濃度のオゾン水を適切に攪拌し続ける必要があります。

これはエタノールや次亜塩素酸ナトリウムとは大きく異なる特徴です。

 

手指の消毒にオゾン水を使う場合も、手のひらの量をすり込めばよいエタノールと異なり、オゾン水は、水道水で手を流すかのように新鮮なオゾン水を供給し続けて手指をびしゃびしゃにする使い方をする必要があります。

また、繰り返しますが、新型コロナウイルスの不活化効果があると認められたのは10ppmのオゾン水ということと、他の濃度での場合やどのくらいの時間をかければ不活化ができるかは示されておらず、追加の研究が必要と思われます。

 

(2020年9月1日:Q&Aの目次を読みやすくしました。)

(2020年8月31日:脱字を修正しました。)

(2020年8月28日:記事タイトルを修正しました。)